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97歳で逝った祖母、無言で私に教えた死の在り方-終末期医療

9月16日(ブルームバーグ):私の祖母、三宅寿子は高齢期に重度の認知症を患い、昨年2月から胃に直接に栄養をチューブを入れる「胃ろう」で生きながらえていた。5月からは輸液の点滴に切り替え、9月5日に静かに息を引き取った。97歳だった。

私は昨年7月、祖母の終末期医療を記事にした。その理由は、私が語り始めることで、難解な医療の判断について率直な議論を始めるきっかけになるかもしれないと思ったからだ。日本では死について語り、延命治療しないでほしいとの意思表示であるリビングウィルを残すことは珍しい。

私の祖母が生まれた1916年にそのような難しい選択を迫られることはなかった。当時の日本人の平均寿命は43歳。今は83歳と世界一の長寿国となった。

祖母は産業が発展し西洋に追いつこうとする時代に、裕福な米問屋の長女として生まれ、不自由なく育った。第二次世界大戦で突然それを失った。食料は配給制になり、家業は事実上廃業、資産の多くは没収された。祖母の弟は満州(中国東北部)に出征、戦死した。

祖母は自分の両親の老後を実家で見ながら、老いることの大変さに気づいたのだろう。まだ意識がはっきりしていたとき、私の母に「『えいや』と向こうの世界に行けると楽やのにな。でもそういうわけにはいきませんな」と話した。医療の進歩で平均寿命が伸び、死ぬことが長く、難しく、費用のかかる作業になった。

終末期に何を求めるか

私の両親はこれから日本の高齢化を加速させる団塊の世代とそれほど年が離れていない。現在4人に1人が65歳以上という社会が、2040年には40%が高齢者になる。これから医療や介護を一層必要とする世代だ。膨大な公的債務を抱える日本。人口減少によって、この世代を支える費用を稼ぎ税金を払う世代は縮小していく。出生率は依然低く、移民を大々的に受け入れる合意もない。

団塊の世代が終末期に何を求めているかを知ることは、医療・介護費の抑制につながるということを祖母の記事を書く上で知った。厚生労働省の調査では、重度の認知症や末期がんを患った際、70%以上の人々は胃ろうを希望しないと答えている。

最近まで日本の医師、患者、家族の多くは、延命と医療費についてはっきりとした議論をすることを拒んできた。私が祖母の記事を昨年7月24日に配信した後、数多くのメッセージを世界中から受け取った。自分たちの家族の悩みと決断をつづったものもあったし、これから迎える難しい決断を心配するものもあった。医療、介護従事者からも意見をもらった。

長野の消化器内科医、徳竹康二郎氏は高齢者に対する胃ろうという医療行為について悩んでいる胸の内を打ち明けてくれ、その次の記事につながった。

診療報酬改定

ブルームバーグニュースを含めた様々な報道機関がこのテーマを取り上げた後、今年、政府は胃ろうの診療報酬を改定、胃ろうを受ける寝たきりの高齢者患者抑制に動き出した。個人レベルではこれらの取材体験を通じて、自分の両親が終末期に何を望んでいるかを率直に話すことができた。このような機会がなければそんな話はしなかっただろう。

祖母が胃ろうという行為を本当に望んだのかどうかは分からない。ただ彼女の生き抜こうとする思いは人一倍強かった。何度も高熱と闘い、そのたびにそれを打ち負かしてきた。

私が祖母の終末期を公にしたことを祖母は怒っているかもしれない。世間が自分や自分の家族をどう思うか、ということを気にする人だったからだ。一方で、苦しむたくさんの家族の心を癒し、加速する高齢化社会の率直な議論に少しでも貢献できたことを喜んでいると信じたい。

記事についての記者への問い合わせ先:東京 松山かの子kmatsuyama2@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先: Anjali Cordeiroacordeiro2@bloomberg.net 谷合謙三, 大久保義人

編集部より:この記事は bloomberg.co.jp 様の2014/09/16の投稿を転載させていただきました。