日本版CCRCはサ高住に新しい風を吹かすか?
政府でにわかにCCRCの日本への導入が話題になっている。
地方創生の絡みで2月には第1回の「日本版CCRC構想有識者会議」研究会が開催され、年内をめどに結論を得るとのスケジュールになっている。
CCRCとは?
CCRCとは、Continuing Care Retirement Communitiesの略で、Continuing Care(継続的ケア)とあるとおり、元気なうちはもちろんのこと、途中で介護が必要になっても継続して介護を受けながら生活をしていける施設のことを指す。
CCRCには、自立して生活できる人向けの住居(Independent Living)もあれば、見守りや軽介助のサービスのついた住居(Assisted Living)や手厚い介護を提供する施設(Nursing Home)もあり、様々なタイプの「住まい」が併設されている。
入居者は元気なうちは介護なしのIndependent Livingで生活するが、介護が必要になればAssisted Livingに引っ越したりNursing Homeに入居したりする。複数の施設が併設されていることで、ライフステージが変わっても、住み慣れた同じ場所で生活できる、というのがCCRCの強みだ。
昨年、オレゴン州のCCRCを2施設見学させてもらったが、どちらも「住まい」としてのグレードは極めて高かった。プールやジム、シアタールームなどの共用施設が充実しているし、居住室は小さい部屋でも1DKからと、日本の高齢者住宅に比べてかなり広い。食堂ではレストランのように自分でメニューから食べたいものを選べ、ウェイターが料理を持ってきてくれる。ダンス教室やヘアーサロンなどもあって、さながら一つの小都市のようになっていた。
日本のサ高住の「常識」
今議論され始めた日本版CCRCでは、「サービス付き高齢者向け住宅」を高齢者の受け皿となる住宅としてて捉え、アクティブシニアを呼び込んで地域活性化につなげたい、という目論見のようだ。
とはいえ、今のサービス付き高齢者向け住宅の「常識」では「日本版CCRC」とうたったところで本家とは似ても似つかぬ格好になるのは間違いない。
サ高住の居住室は法律で定められたギリギリの面積要件である18m2程度の居室が圧倒的に多く、こういうタイプのサ高住でよくあるのは、①必要最低限の大きさの居室、②大きい食堂、③デイサービス、④訪問介護の詰所の4点セット。併設のデイサービスや訪問介護から得られる介護報酬を当てした上で家賃や食費も含めたビジネスモデルが組み立てられている。
現在のサ高住市場は、一定程度の介護が必要なもののなかなか特養には入れない「特養待機者」を主な顧客としており、「疑似特養」のようなものが多い。日本版CCRCが期待する「アクティブシニア」を対象としたものは極めて少数だと言わざるを得ない。
もちろん、それ自体は今の社会の要請から来たものでもあるため、是非を判断するつもりはないが、少なくともこのように「施設」の延長線上にある限りは、「住まい」としての機能が充実しているアメリカのCCRCに相対する施設にはなりえないのではないかと思う。有識者会議では「健康でアクティブな生活」「多世代との協働」など高邁な”基本コンセプト”が掲げらているが、「健康でアクティブな生活」を送る日本の高齢者は今のサ高住にはとても入居してはくれないだろう。
日本版CCRCはサ高住に新しい風を吹かすか?
今の「標準的」なサ高住は、アメリカのCCRCと向いている方向が540度くらい違うので、日本版CCRCとなるサ高住は、既存のものとはまったく違った施設設計をしていく必要がある。そしてそれは”王道”の住居+介護とは違うビジネスモデルを構築することでもある。
日本版CCRCがうまくいくかどうかはわからないが、「疑似特養がベストプラクティス」みたいになってる日本のサ高住市場に、新しい風が吹くことに期待したい。