助成金を提供して問題への社会的取り組みを広げる方法
人間社会が関わるさまざまな問題について助成金を提供することで市民活動を応援し、問題の理解を深めたり、社会的認知を広げたり、その解決を促したりする「助成団体」の設立と運営を紹介します。 |
ビフォーアフター
ビフォー世の中にいろいろな問題があるのに、1) メディアなどでそれらの実態がしっかり伝えられていない、2) 取り組む人や団体が少ない、3) 取り組む人や団体があっても力が弱い――といった理由で問題解決が進まないと、社会全体に窮屈で無力な空気が漂って、どこか本当には楽しくありません。宮沢賢治が言うように「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」(『農民芸術概論綱要』)ことを、私たちは心の奥で気づいているからです。 |
アフター社会的な問題に取り組む人や団体が増えて、問題の理解を深めたり、解決の方法を探ったり、問題を知らせたりする活動が広がることで、メディアがさらにそれを報道して社会的認知を増幅し、多くの人びとが問題の原因だった行動をやめる、あるいは立法・行政・司法の三権や自治体首長や関連企業が必要な対応を取るなどして、問題解決が進みます。社会全体に「やればできるんだ! ものごとは良い方向に変えられるんだ!」という前向きで創造的な機運が強まり、連帯感や充実感のある暮らしやすい世界が生まれます。 |
手順
1. 解決したい問題領域を決める
世界には多種多様な問題があるので、その中から自分(たち)が解決したいと思う問題領域(テーマ)を選びます。人権、環境、貧困、教育、海外援助など比較的大きな括りでもいいですが、身近で実際に起こっている具体的な問題からスタートすることが自然ですし、目に見える成果につながりやすいものです。国際NGOと呼ばれるような団体でも、最初は地域のシングルイシューから自然発生したものが少なくありません。ただし助成団体の場合は、自分たちが直接、問題解決に取り組むのではなく、市民活動を応援することで問題解決を促すという基本スタンスのため、次の手順2で寄付金を集めやすいようなテーマの掲げ方を工夫する必要があります。支援対象分野として複数のテーマを設定することも可能です。実際には、助成団体の設立と運営には財源の見通しが不可欠なので、手順1と2はニワトリが先かタマゴが先かの一体的関係にあります。
写真:abtが主催したネオニコチノイド系農薬問題の戦略デザインワークショップ(2011年7月)
2. 寄付を集める
問題領域(テーマ)が決まったら、関心のありそうな人や団体から浄財を集めます。とくに助成団体の場合は、市民活動を応援して問題解決を促すという間接的なアプローチなので、その意義を理解してもらわなければなりません。世の中には、自分自身が問題解決に乗り出したり、直接的にNGO活動などを支援したりするより、もう少し間接的な方法で社会貢献したいと考える人や団体も必ず存在するものです。また、助成団体として寄付浄財を集めるには、それなりの信頼性が必要になりますから、中心となる人が市民社会において一定の実績を積んでいるとか、テーマ設定した分野に詳しいスタッフを揃えるといったアピールポイントを工夫してください。さらに助成団体としての独立性を守って社会的信頼を築くには、寄付者に「お金は出すけれども口は出さない」ことを確約してもらわなければなりません。定期的でわかりやすい活動報告、助成事業の体験機会提供などによって寄付者とのつながりを保ちながらも、寄付の見返りは基本的に助成した活動の成果なのだという理解を共有し、市民社会の活性化を支える“仲間=協働者”として助成事業の進展を一緒に喜ぶ姿勢が大切です。寄付者・助成団体(助成元)・助成先は、市民社会の活性化という共同作業の対等なパートナーであり、そこに上下関係のような歪みを持ち込むことは禁物です。
写真:土と平和の祭典2011にて、ネオニコチノイド系農薬の使用禁止を求めるNGOネットワークのトーク「危機にある蜜蜂」(2011年10月)
3. 企画を募る
十分な財源が準備できたら、予算枠内で助成するための企画を募ります。これには大きく分けて「公募助成」と「企画助成」の二つの方法があります。「公募助成」では、助成の目的・テーマや助成枠(1件あたりの限度額など)を示して広く一般から企画を募り、第三者的な選考委員会の審査を受けるなど公正・公平な選考過程を経て採択案件を決定します。助成対象分野で問題に取り組む新しいプレーヤーを発掘できると同時に、公募プロセス自体に問題の社会的認知を広げるメリットがある一方、公募という仕組みを回すこと自体に手間もお金もかかります。「企画助成」は基本的に助成団体のほうから有望な人や組織に声をかけ、一緒に企画を練り上げて、その実施を支援するものです。恣意的な運用にならないよう、選考理由や企画の内容を助成団体の理事会と寄付者にきちんと説明し、理事会の審査・承認を受けるプロセスが必要です。公募に準じた選考フォーマットを使うと公平性・公正性が高まるでしょう。
写真:写真家・広川泰士さんによる屋久島の照葉樹林
4. 企画の実行を支援する
公募助成も企画助成も、助成金を支給して終わりではなく、むしろ企画の実行段階で継続的な支援を行なうことと、助成金の収支を含む経過および最終成果を確実に報告してもらうことが同じくらい重要です。資金援助以外のサポートは、助成団体の専門性や人脈を活かした助言、広報面での協力、連携できそうな人や団体とのマッチング、研修などのスキルアップ機会提供、企画実行の場への参加・見学といった様々な形が考えられます。助成団体の人的・資金的能力の中で工夫を凝らしたいものです。また、計画からの遅滞や逸脱、助成金の疑わしい使い方などについては毅然とした厳しい対応をすることもサポートの一部です。そのためにも、助成決定時の企画書に目標や成果物、そこへ至るステップなどを明確に描き出し、助成元と助成先の双方で正式合意しておくことが欠かせません。私が運営を預かる一般社団法人アクト・ビヨンド・トラストでは、助成決定に際して「活動支援に関する覚書」という一種の契約書を締結します。
写真:「原発いらない!全国の女たちアクション」経産省前テントにて(2011年11月)
5. 企画の成果を共有する
企画の実行中は、助成先の人や団体がそれぞれの発信窓口から適宜、成果を社会に伝えることと、助成団体としてそうした広報努力に協力し、助成団体のウェブサイトなどを通じて成果を紹介することの二本立てになります。うまくいけば、さらにメディアがそれを取り上げてくれるかもしれません。企画年度の半ばには中間報告、企画実行後には最終報告を書面の形で提出してもらいます。助成決定時の合意で、最終報告書は公表することにしておくと、適度な緊張感のある充実した成果報告が得やすいでしょう。また助成団体の内部で、理事会や寄付者向けに毎月の進捗レポートを作成して回覧することも大切な成果の共有です。このほか一般社団法人アクト・ビヨンド・トラストでは、公募案件の第二次選考に先立つ企画プレゼンテーションと、年度末の成果報告会を一般公開し、問題解決に向かう動きを社会と共有する一助にしています。ただし、こうした形式的な成果共有とは別に、助成企画の実行が社会にもたらす有形・無形の変化こそが、市民活動の助成による本来の成果共有であることを忘れたくありません。
写真:屋久島・雲南交流フォーラム2011「世界遺産地域における『自然共生型社会』の実現に向けて」(2011年9月/屋久島)
コツ
社会的な問題に直接取り組む市民団体を作るのではなく、市民活動を応援する助成団体を設立・運営しようとするのは日本ではまだ珍しいケースですが、世界では様々な分野と規模で助成を行う中間支援団体が活躍しています。助成団体が関わることで、市民活動に回る社会的なお金の流れが少しでも増えるとともに、助成プロセスによって市民活動の質が高まる効果を期待したいものです。助成団体の基盤となる財源確保に関して、寄付者に税控除のメリットが生じる認定NPOや公益社団、公益財団の資格獲得はハードルが高いですが、一般社団法人アクト・ビヨンド・トラストでは信頼資本財団の「共感助成」という枠組みに登録することで、寄付者に税控除のメリットを提供しています。また、今後大きな可能性を秘めているのは、ネット上で手軽に広く寄付を募る「クラウドファンディング」の活用でしょう(「共感助成」もその一種)。人間的な絆に基づくオーソドックスな大口寄付や、サポーター(会員)制による中小規模の資金調達に加え、もっと目に見えない社会の細根から栄養を集めるようなクラウドファンディングは、市民社会活性化の鍵になるかもしれません。
星川 淳(ほしかわ・じゅん)
1952年、東京生まれ。1982年より鹿児島県屋久島在住。半農半Xの先駆けとして自給的な暮らしをベースに80冊以上の著訳書を手がけながら、環境や平和に関わる国内外の市民活動に数多く参加。2010年末まで5年間、国際環境NGOグリーンピース・ジャパン事務局長を務めた後、一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト(abt)(http://www.actbeyondtrust.org/) を設立、代表理事として運営を担う。abtは自然環境と人間生活の調和をめざす市民やNPO・NGOの活動を支援する独立した民間基金として、「ネオニコチノイド系農薬問題」「脱原発・エネルギーシフト」「東アジア環境交流」の3部門で助成事業を展開中。著書に『タマサイ』(南方新社)(http://hoshikawajun.jp/)、 『魂の民主主義』(築地書館)(http://www.tsukiji-shokan.co.jp/mokuroku/ISBN4-8067-1309-0.html)、 共著に坂本龍一監修『非戦』(幻冬舎)、訳書にP・アンダーウッド『一万年の旅路』(翔泳社)、監訳書にA・ヤブロコフ他『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』(岩波書店)(http://chernobyl25.blogspot.jp/) 他。
編集部より:この記事は星川 淳 様の2014/03/20の投稿を転載させていただきました。