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高齢期の社会的孤立

 

OLD MAN

孤立高齢男性にアプローチするには

“年齢に関わらず活躍し続けられる社会”にしていくことは、国民の健康や生きがい、社会の活力の維持、医療・介護費の適正化の観点から、時代の要請となっている。筆者もその実現に向けた「高齢者の社会参加」を促す研究及び活動を進めているが、常にこの取組みの表裏一体の部分には、高齢期の「孤立」(*1)の問題が存在する。

本稿では、どのような人(高齢者)が孤立してしまうのか等、先行研究から少しレビューしてみることにしたい。

■孤立高齢者の割合

まず、どれくらい孤立の状態にある高齢者がいるのか。結論としては「1割未満」、4~7%程度を表す研究が多い。これは孤立の状態を測る共通の指標が確立されていないため、それぞれの研究の中で操作的に孤立の定義が定められ算出されているのが実態であり(*2)、結果の割合も様々なのである。ただ、研究者間では「1割未満」であることは共通認識となっている。

65歳以上の1割未満(数%)の人が孤立の状況にあるということだが、これを多いと捉えるか、少ないと見るかは判断に迷う部分もある。しかしながら、社会としては「ゼロ」にしていくことが必要であろう。

■孤立高齢者の特徴

では、どのような高齢者が孤立しているのか。斉藤氏(*3)による報告によれば、個人レベルの特性として、一人暮らしであること(Townsend 1963)、男性(Tunstall 1966)、より高齢の方(Wenger et al. 1996)、低所得・貧困者の方(Weinstein et al.1982;Simonsick 1998)、健康状態の悪い方が、高齢期に孤立状態に陥りやすいとされている。

いずれも実態から追認できることであろう。その中で一人暮らしの男性については、私も民生委員の方などから、「なかなか誘っても外に出てこない、面会・交流を避ける人が多い」といった声を聞く。なぜ男性はそのような態度をとるのだろうか。

■孤立高齢男性の特徴とアプローチ

この点については、先行研究からは2つの指摘が確認される。

一つは「自己開示性」の性差の影響である。社会心理学研究では、女性は他人へ心を開く「自己開示性」が高い一方で、男性は低いことが知られており、ストレスを感じると女性は他人と話す方向に向かう一方で、男性は沈黙してしまいやすいとされる。

男性は内心深く悩んでいるからこそ、むしろ他人には悩みを言わない傾向が強いとのことである。

もう一つは、個々人が有する男女の「ジェンダー的役割」の影響である。従来の性別役割規範は、女性にケアの役割を要求する一方で、男性には家族を支える強さを要求してきた。すなわち「男は弱みをみせてはならない」、「男は自分の感情を表に出してはならない」、「男は我慢しなければならない」といった”男らしさ”が求め続けられた結果、無意識のうちに男性は他人にサポートを求めづらくなってしまった可能性がある。

前述の「自己開示性」とも関連深いことである(*4)。

以上は、孤立者の中に男性が多いことを心理面から説明したものと言えるが、こうした潜在的に有する性質に加えて、今日的には、キャリア経験に培われた「プライド(自尊心)」と人間関係の「疲弊」による影響が大きいと考える。

成人になって社会の荒波の中で生き抜くことは大変なことである。特に近年は、企業(社会)における競争環境が厳しく、また個人主義化が進んだ結果、自分を自分らしく維持することの意識の強さとそれに伴う疲弊がかつてよりも大きくなっているように推察する。

その結果、リタイアした後、やみくもに地域活動等へ参加することを促されても、なかなかそれに従えないことは相応に理解できる。男性に高齢期の社会参加を促す方向として、「プライドを捨てろ」、「地域に溶け込め」ということがよく強調されるが、そうした一方通行のアプローチは限界があると思われる。

人間関係の煩わしさから解放された高齢男性が望むのは、自分と価値観や境遇が似通った「気の合う仲間」と過ごすことだろう。個人単位では昔からの気の合う仲間と過ごせばよいわけであるが、地域活動を活性化させる観点からは、そうした気の合う仲間を見つけられる機会を如何に創出できるかがポイントと考える。

以上、本稿では先行研究のレビューと僅かな私見を述べたが、現在、弊社においては特別研究プロジェクトチームを組成して「長寿時代の孤立予防」をテーマとした研究を進めている。

高齢期に孤立者を産まないための「原因と予防策」を追究している。その研究結果については、追って公表させていただく予定である。

*1 「孤立」と「孤独」の用語は混同されやすいが、孤立は「人間関係を喪失した状態」、孤独(感)は「人間関係の欠損または消去により生じる否定的な意識」である。「孤立」状態により生じる寂しさややるせなさといった意識の総体が「孤独」(感)、とされる(工藤力・長田久雄・下村陽一(1984)「高齢者の孤独に関する因子分析的研究」『老年社会科学』6(2)pp167-185より引用)。
*2 例えば「過去1週間、誰とも会っていない日が4日以上ある人(Qureshi et al. 1989);4.3%」
*3 斉藤雅茂(日本福祉大学 社会福祉学部 准教授)。2013年5月に当社で講義を受けた。
*4 稲葉陽二・藤原佳典編著(2013)『ソーシャル・キャピタルで解く社会的孤立』、ミネルヴァ書房、p25-26,48-49より引用

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株式会社ニッセイ基礎研究所
生活研究部 主任研究員
前田 展弘

編集部より:この記事は 株式会社ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員 前田 展弘 様の2014/10/15の投稿を転載させていただきました。